単純所持規制の問題点について
2014年09月13日
③被疑者が違法性を認識していなかった場合
冤罪が起きやすいという反対理由について :
あいまいな定義による冤罪の問題 :
③被疑者が違法性を認識していなかった場合
このケースを冤罪という事はできません。
違法性を認識していようといまいと、犯罪行為を犯した以上、
行為は行為として裁かれることがほとんどだからです。
「これは児童ポルノじゃないと思っていた」 などと言う
言い訳は通用しないのです。
これを、違法性の錯誤と言います。
判例にならえば、児ポ法そのものを知らなかったり、
それは知ってても自己目的所持が違法であると知らなかったり、
あるいは自分の持っているエロ表現が児童ポルノにあたるとは
思っていなかったり、といった事例であっても、
それだけで無罪になったり減刑される可能性はほとんどありません。
ただし、「これは児童ポルノだ」 と認識できる可能性が
ほとんどなかった場合は、情状が酌量される場合があります。
たとえば、公に流通しているエロDVDで、審査も通過していて、
はっきりとパッケージに18歳以上であると明記されていた場合、
そこに映っているAV女優が仮に18歳未満であったとしても
購入した人間がそのことを知る可能性はかなり少なくなります。
少なくとも、18歳以上であると信ずるに足る相当の理由があった、
というべきケースにあたるでしょう。
黒い雪事件 - Wikipedia
この事件では、「黒い雪」 という映画がわいせつであるとして
裁判になり、裁判所もわいせつであると認めましたが、
ちゃんと映倫の審査を通過しており、その際に指摘を受けて
修正・削除などの編集を行った上での上映なので、
法律上許されたと信じるにつき 「相当の理由」 があったとして、
無罪判決が確定しています。
(2014/9/21 entry)
違法性の錯誤による逮捕の心配を払しょくするには
冤罪が起きやすいという反対理由について :
あいまいな定義による冤罪の問題 :
違法性の錯誤による逮捕の心配を払しょくするには
たしかに、児童ポルノの定義はあいまいです。
もしかしたら、誰しも本棚や押入れの奥やパソコンのハードディスクのどこかに、
過去に入手した児童ポルノの類が眠っているのかもしれませんが、
だからと言って過度な不安を抱くのはバカげています。
そんなものは気にせず放置しておけばいいのです。
警察だってヒマじゃないので、片っ端からいちいち調べたりしません。
普通に生活していれば、ばれる事はまずありません。
もっとも、児童ポルノ販売業者の顧客リストに個人情報を残すとか、
別の事件で家宅捜索を受けてパソコンを押収されるなど、
警察にバレるきっかけがあれば、発見される可能性はあります。
だからと言ってそんな事を過剰に気に病むのもどうかと思いますが、
どうしても心配なら、ヤバそうなものは全部捨ててしまえばいいでしょう。
あいまいな定義の中にも、ひとつだけ厳密に規定されている項目があります。
それは、18歳未満であるという、年齢の定義です。
どんなに定義のグレーゾーンが広くても、被写体が18歳以上なら
児童ポルノにはあたりません。
そして、被写体が18歳以上であると確約されている性表現など
世の中に星の数ほどあふれています。
どっちかわからないようなエロ画像とかDVDとかを全て捨てても、
困らない程度には十分代替できるはずです。
(年令知情の問題、家族写真の問題は別エントリでも取り上げます)
放置するか全部捨てる、どちらかを選択すれば、
ほとんどの一般人はこの問題を解決できます。
痴漢冤罪の不安への対応と比較すればわかりやすいでしょう。
いくら痴漢冤罪が多発しているからと言って、
迷惑防止条例や強制わいせつ罪を廃止しろ、などと
バカを言う人間はいません。
ほとんどの一般人は、両手で吊り革をもつなど、
自分でできる対策を打つことで防止しているのです。
(2014/9/22 entry)
公的な判断基準の提示をなぜ要求しないのか?
冤罪が起きやすいという反対理由について :
あいまいな定義による冤罪の問題 :
公的な判断基準の提示をなぜ要求しないのか?
それでも困る、俺は18歳未満でないとダメなんだ、
でも定義があいまいだから基準がわからないんだ、というなら
警察による判断基準の公示を要求するしかないでしょう。
過去に摘発された児童ポルノの事例に基づいた
ブラックリスト・ホワイトリストを公開させるのです。
タイトル名でもいいし、簡易なイラストによる図示でもいい。
データ数が多くなればなるほど、判断基準は明確になりますし、
所持者側も表現者側も表現の違法性の認識がそれだけ容易になります。
放置または破棄という解決策に比べれば、実行のハードルは高くなりますが、
誰でもできる対策では我慢できないという、特定少数者のための
施策に税金を投入するのですから、それは仕方がありません。
痴漢冤罪で言えば、男性専用車両の設置や、
取り調べの際のビデオ撮影の義務化を
要求するようなものです。これには大変な労力を伴います。
警察に相談窓口を設ける、というのもいいでしょう。
どちらにしても、警察のお墨付きがあれば
これほど確かな判断基準は存在しません。
本当であれば、規制反対派は2014年の法改正時に、
単純所持違法化成立のバーターとしてこういう対案を
改正項目に盛り込ませるべきだったのです。
それをしなかったのは、よっぽど考えが足りなかったのか、
あるいは規制反対派自身が、ホンネでは
定義があいまいだろうとなんだろうと
そんな事はどうでもいい
と考えていた、と推察する他ありません。
あいまいな定義を問題視していたのは、
国民生活の安全を重視していたためではなく、
児ポ法改正にいいがかりをつけるための
脅しネタとして利用していた、
というだけの話だったのです。
(2014/9/23 entry)
年令知情の問題 - 年齢の確信が無ければ捨てるべき
冤罪が起きやすいという反対理由について :
年令知情の問題 :
年齢の確信が無ければ捨てるべき
規制反対派が単純所持規制に反対する理由の一つに、
児童の年齢の定義が18歳未満となっており、
ヌード写真や動画に映っている児童の年齢が
18歳未満なのかそれ以上なのかの
判別がつきにくく、冤罪の原因となる
というのがあります。これも3号ポルノ条項と同じく
①警察・検察と裁判所で認定基準が異なった場合
②逮捕後、嫌疑なしまたは嫌疑不十分で不起訴となった場合
③被疑者が違法性を認識していなかった場合
の3つのパターンが考えられ、反対派に対する
私の反論もそれとほぼおなじになります。
ただ、3号ポルノ条項と違って、被写体の年齢は
客観的な根拠でもって知りうることが可能です。
だから、冤罪回避はずっと容易になる筈です。
要は、被写体が18歳以上と確約されている表現だけを
所持すればいいのだし、そんなのは嫌という程
世の中に出回ってますから、切実に困ることは何もない筈です。
ひょっとしたら規制反対派は、
アダルト動画サイトやファイル共有ソフトでダウンロード所持した
ロリAV などの心配をしているのかもしれません。
そういうのなら信頼できるメーカーの製作なのかそうじゃないのか、
審査機関の審査を通っているのかいないのか、
パッケージに年齢は明記されているのかいないのか、
わからない事も多々あるでしょうから、あるいは
被写体が児童かどうかの判別がつかないかも知れません。
しかし、それなら最初から持たないか、捨ててしまえばいいのです。
もちろん、警察の摘発を心配しないのなら、隠し持ってても
特に問題も起きないでしょうけれど。
何にしても、エロサイトから無料でダウンロードした動画や画像を
愉しむ権利なんて、児童の人権より軽くみられるに決まってるので、
年齢不詳の性表現を所持したいなら、それなりのリスクを背負う覚悟が必要でしょう。
(2014/9/24 entry)
タナー分類による年齢推定 + 捕捉 : 年令知情無過失責任
冤罪が起きやすいという反対理由について :
年令知情の問題 :
タナー分類による年齢推定
+ 捕捉 : 年令知情無過失責任
ちなみに、児童ポルノと疑わしき画像や動画に関して、
被写体の身元が特定できず、年齢が立証できない場合ですが、
警察の捜査過程でよくタナー分類というものが用いられます。
思春期の発現 (PDF)
ただ、この方法による年齢類推もいろいろ問題があり、
検察の主張を覆した「ロリ系女優の貧乳」 - 東スポWeb
(web 魚拓)
警察も確信できないケースは放置する以外に手が無いようです。
<児童ポルノ>被害者1696人特定できず 07年検挙事件
しかし、裁判所がどう判断するかは別問題で、
タナー分類による検察の立証が認められたら、
「年齢がわからないけど所持してた」 性表現が
児童ポルノと認定され、有罪になる可能性があります。
(上の東スポweb の記事でも 「論破された」 などと書いてますが、
顔から(おそらく)陰部まで描写されている複数枚のCG画像による年齢類推と、
顔を隠した胸だけの写真による年齢類推とでは、
後者の方が困難度が高いのは当然の話で、
それだけで前者の証拠能力が否定されるかどうかは疑問です。)
もっとも、児ポ法に過失罪はなく、第9条の無過失責任も
単純所持、自己目的所持には課せられていないので、
被告側が過失を立証できれば、あるいは無罪になるかもしれませんが、
この辺はまだ判例がないので何とも言えません。
まあなんにしても、警察の摘発を恐れるなら、
ヤバそうなものは全て捨てといたほうが無難だと思います。
2008-06-02 - 奥村徹弁護士の見解
<児童ポルノ>被害者1696人特定できず 07年検挙事件
<< 捕捉 >> 年令知情の無過失責任とは?
児童ポルノ法の第9条に、こんな条文があります。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制 及び処罰並びに児童の保護等に関する法律 (児童の年齢の知情) 第九条 児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、 第五条、第六条、第七条第二項から第八項まで 及び前条の規定による処罰を免れることができない。 ただし、過失がないときは、この限りでない。 |
ちょっとわかりにくい条文ですが、素人なりに解説します。
まず、第五条とは、児童買春の斡旋です。
第六条は、児童買春の勧誘です。
第七条第二項から第八項までとは、児童ポルノの製造、頒布、提供、
もしくはそれら目的の所持、運搬、輸入などです。
要するに、2014年改正前からあった違法項目で、
これらの行為 (犯罪行為) をした場合、
「児童の年齢を知らなかった」
という言い訳は通らないという事です。
ただし、過失が無いとき、言い換えれば
「18歳以上であると信ずるに至る相当の理由」
があれば、無過失責任を果たしているとして、
無罪になるかもしれない、という事です。
児童ポルノ法に過失処罰規定はないため、
過失があると認定されれば、無罪になります。
ただ、年令知情だけは、過失があっても有罪になります。
それも、検察が過失を立証するのではなく、
被告が無過失を立証しなければならないのですから
これはかなり厳しい要求を突き付けられていると言えます。
その他の違法行為、たとえば児童買春とか自己目的所持に、
この無過失責任は問われません。
それどころか、過失責任すら問われません。
(ただし児ポ法の場合。各自治体の淫行条例によっては、
無過失責任を問われる場合もあり)
ということは、被告が 「過失がある事」 を
証明できれば、たとえ買春相手が児童であっても、
所持していたエロ表現が児童ポルノであっても、
無罪になる可能性があるという事です。
「過失がある事」 の立証は、「過失が無い事」 の立証より
容易なのは言うまでもありません。 (本当に過失があれば、の話ですが)
買春罪や自己目的所持罪は、製造罪や頒布罪に比べて、
それだけ要件が緩和されていると言えます。
もっとも、どこからどこまでが 「過失がある」 という状態で、
どこからどこまでが 「過失が無い」 という状態なのか、
そのあたりの基準は私にはハッキリわかりません。
年令知情無過失責任の条項がある
青少年保護条例違反の判例に当たれば、
ある程度基準も見えてくるんでしょうけど。
児童買春1罪・15歳・年齢知情否認→求刑1年6月(千葉地裁) - 奥村徹弁護士の見解 (web 魚拓) いまのところ、年齢不知の主張で無罪になった判決には お目にかかっていません。 きわどいのは起訴されていないのだと思います。 |
上記リンク先に、「17歳とは知らなかった」 という供述が
却下された判例が掲載されていますので、
ご覧いただければ参考になるかと思います。
(2014/9/25 entry)
★ 2014/9/28 追記 ★
こちらは奥村弁護士へのインタビュー記事ですが、
児童買春で過失が認められて無罪になった判例が
紹介されています。
教師が中3女子を児童買春 「14歳だと思わなかった」は通用するか
(web 魚拓)
ウィルスに感染しただけなら摘発の心配はない
冤罪が起きやすいという反対理由について :
ウィルスやワンクリック詐欺で、
意図せず所持してしまった場合 :
ウィルスに感染しただけなら摘発の心配はない
ウィルスやワンクリック詐欺で意図せぬままに
児童ポルノをパソコンにダウンロードしてしまう、
という可能性は確かにゼロではありません。
そして、それが警察に見つかり、摘発される可能性も
確かにゼロではありません。
しかし、それが摘発・逮捕 → 起訴・公判 → 判決 に至るまでには
いくつもの高いハードルが存在します。
まず、本人も気が付かないような所持を、
警察がどうやって知りえるのか、という問題があります。
警察が捜査を始めるには、端緒となる何らかの契機が必要です。
警察に知られない限りは、まず摘発される恐れはありません
何の容疑もない一般人の家庭をしらみつぶしに家宅捜索して、
あるかもないかもわからない児童ポルノを発見するヒマなど、
警察にはありませんし、裁判所から捜査令状も出ないからです。
単純所持禁止を先行して導入していた奈良県では、
私の知る限り3人が摘発されていますが、
3人とも業者からの購入や盗撮など、
警察に捜査の端緒となる契機を与えています。
2010-12-27 - 奥村徹弁護士の見解
こっちを見ると、
奈良県条例での検挙者も、
大抵は、提供罪の捜査で得たリストを基にして検挙された
だそうです。
2013-5-26 - 奥村徹弁護士の見解
児童ポルノ業者に顧客として個人情報を渡していたり、
盗撮を趣味としている方は、気を付けた方がいいかもしれません。
ただそれだと、仮にそこで発見された児童ポルノが
ウィルスやワンクリ詐欺によるものであっても、
あまり同情はされないと思いますけどね。
(2014/9/26 entry)
ウィルスによる過失所持を処罰する規定はない
冤罪が起きやすいという反対理由について :
ウィルスやワンクリック詐欺で、
意図せず所持してしまった場合 :
ウィルスによる過失所持を処罰する規定はない
さて、何か悪さをしでかすか、それとも何もしていないのに
警察に容疑をかけられ、家宅捜査を受けるなどして、
自宅から児童ポルノが発見されたとしましょう。
この時点で、
● ウィルスやワンクリック詐欺で児童ポルノを所持してしまう
● 何らかの容疑で家宅捜索を受ける
というハードルを越えなければならないわけですから、
これは実現可能性としてはかなり低くなります。
そんな事を心配するより、自分の精神が
被害妄想に捕らわれていないかどうかを
心配したほうがよっぽどいいと思いますが、
それはさておき、仮にそうなれば余罪として
児童ポルノ所持罪を追及される可能性があります。
しかし、警察が容疑を固めるならまず、
①容疑者が故意により所持した
②更に、性欲目的で所持した
という確信を得る必要があります。
①が単純所持で、①+②が自己目的所持です。
どちらも 「容疑者が所持しようとした」 という故意の立証が必要です。
「所持しようと思ってないのに所持してしまっていた」 というのは過失です。
刑法第38条 1. 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。 ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。 |
児童ポルノ法に過失処罰規定はないので、
過失であれば立件はされず、したがって起訴・公判には至りません。
仮に故意による所持とみなされても、
それだけなら単純所持であり、罰則はないので
やっぱり立件はされないでしょう。
つまり、
警察は性欲目的の所持であるという根拠を
見つけなければならない
という事です。
たとえば、大量の画像や動画を所持していて、
閲覧しやすいようにフォルダに整理されていた、とかだと、
性欲目的とみなされる可能性はあるでしょう。
しかし、既知のウィルスやワンクリックでの実行ファイルで、
そこまでの偽装が可能な種類は確認されていません。
ウィルスやワンクリにより配布された児童ポルノなら、
ファイルやコードにパターンを伴っているので検出は可能でしょう。
(ウィルスの挙動に関しては、次のエントリで検討します)
それよりも可能性が高いのは、警察による自白強要です。
仮に児童ポルノ画像がPCに一枚だけ保存されていたとして、
「故意に所持したんだろう!?」 「性欲目的だろう!?」 と
恫喝して、無理やり認めさせる、というのはいかにもありそうな話です。
しかしその手の強権捜査は昔から色んな犯罪捜査で
すでにやられていることで、児ポ法だけの問題じゃありませんし、
児ポ法をどうこうしたって解決できません。
そこまできたら、それはもう刑事訴訟法の問題になるのです。
(2014/9/27 entry)
ウィルス冤罪を成立させるための複数の条件
冤罪が起きやすいという反対理由について :
ウィルスやワンクリ詐欺で、意図せず所持してしまった場合 :
ウィルス冤罪を成立させるための複数の条件
コンピュータウィルスとは、厳密にはプログラムファイルに寄生して
感染・増殖を繰り返すプログラムの事であり、
パソコンに侵入し、悪意のある動作を実行するプログラムは
マルウェアと呼ぶのが正しいようです。
(ウィルスもマルウェアの一種ですが)
また、児ポ法冤罪の文脈におけるワンクリック詐欺とは、
● ワンクリックだけで強制的に児童ポルノサイトなどに登録・入会させられ、
その際ワンクリックウェアなどをダウンロードしてしまう
● 無関係を装った騙しリンクなどで、直接児童ポルノ画像が表示され、
パソコンにキャッシュやサムネイルが生成され、所持状態となる (捕捉1)
● FBI のおとり捜査などにより、児童ポルノサイトへの移動を明示した
URL を踏んでしまい、摘発の端緒とされてしまう (捕捉2)
などの意味合いで使用されると思われますが、
「ウィルスによる所持」 と 「ワンクリックウェアによる所持」 は、
マルウェアによる意図せぬ所持という意味で
同一の事態を指していると思われます。
この 「マルウェアによる冤罪」 の成立においては、
①どうやって警察に所持を認知させるのか?
②どうやって故意による所持、性欲目的による所持を偽装するのか?
③どうやってマルウェア侵入の痕跡を消去できるのか?
④また、プログラムコードや所持させる児童ポルノが
マルウェア特有の一定のパターンを伴う事で
発見が可能になる事態をどう回避するのか?
という課題が克服される必要があります。
もっとも、③④に関しては、あくまで摘発・聴取に至った段階で
被疑者が無実を証明できてしまう 「冤罪マルウェア」 としての
完成度の問題であって、被疑者 (冤罪被害者) にとってみれば、
それ以前に逮捕されるだけでも大変な事態なのですから、
そのあたりにマルウェアとしての欠陥があってもなくても
あまり意味は無いのかもしれません。
なので、③④は議論の対象から外すとしても、
やはり
① どうやって警察に認知させるのか?
さらに言えば、どうやって
② を偽装し、警察に摘発・逮捕に
至るまでのモチベーションを喚起させるのか?
という問題が焦点になるかと思います。
いくらマルウェアが被害者のパソコンに侵入して
意図せぬ所持状態を多数作り出したとしても、
警察がそのことを知らなければ、仮に知っても
摘発・逮捕するだけの理由と根拠を与えなければ、
冤罪被害などまったく生じる事がないからです。
どのようなプログラムに、そんな事が可能なのでしょうか?
そもそも、技術的にそのようなマルウェアを作成することが可能なのでしょうか?
<< 捕捉 1 >>
キャッシュとサムネイルによる所持だけなら、
所持の故意性と性欲目的が無いため、
罪になることはありません。 (戻る)
<< 捕捉 2 >>
おとり捜査に関しては別エントリで検証します。 (戻る)
(2014/9/28 entry)
海外の事例から、マルウェアによる冤罪生起可能性を探ってみる
冤罪が起きやすいという反対理由について :
ウィルスやワンクリ詐欺で、意図せず所持してしまった場合 :
海外の事例から、
マルウェアによる冤罪生起可能性を探ってみる
<<事例 1 マルウェアによるネット頒布により所持が露顕>>
最も手っ取り早そうなのは、被害者のパソコンから
ネットの掲示板などに児童ポルノ画像をアップロードさせることです。
大量にアップロードして削除せず放置しておけば、
警察に通報が行って摘発に至る可能性は高くなります。
(少量だと管理人にすぐに削除されてしまう可能性あり)
しかし、ネットでの頒布はすでに15年前から違法なので、
すでにそういったマルウェアがあって被害が出ていても
おかしくなさそうですが、そんな事例は一つも確認されていません。
<<事例 2 トロイの木馬による遠隔操作>>
トロイの木馬型マルウェアによる遠隔操作なら、
被害者のパソコンからの児童ポルノアップロードは可能かもしれません。
実際、パソコン遠隔操作事件では、同様の手口で
無実の被害者に犯行予告を行わせ、4件の誤認逮捕を成立させています。
しかし仮にそれが出来たとしても、罪状は児童ポルノ頒布罪であり、
単純所持や自己目的所持の問題ではなくなります。
<<事例 3 マルウェアがブラウザのホームページを変更>>
では、ブラウザのホームページに児童ポルノサイトを指定させるという
マルウェア、もしくは遠隔操作ではどうでしょうか?(実際の報告例があります)
そして、そのパソコンを見た家族などの同居人が警察に通報したら?
児童の性的虐待に対する意識が高い欧米ならあり得るかもしれませんが、
それほどでもない日本の場合は同列に語れないと思います。
離婚危機にある夫婦で、娘の親権を争っている最中などの事情があれば、
あるいは妻が夫を刑事告発する事態も無いとは言えないでしょう。
パソコン内に大量の児童ポルノがあったと告発が追加されれば、
警察も摘発に動くかもしれません。
(この報告例のマルウェアに児童ポルノを
大量所持させる機能があったかどうかは不明)
もっとも、係争の取引材料として利用するだけにとどまらないほど
夫婦仲が悪化しまくっている場合に限りますが。
<<事例 4 マルウェアが児童ポルノサイトを多数巡回>>
実在例で言えば、あるオフィスにてネット回線使用の請求書により、
個人のパソコンが短時間で多数の児童ポルノサイトを
巡回していた事実が発覚した、というのもあります。
もちろん、マルウェアの仕業です。
ずいぶんとネットセキュリティが甘い会社 (もしくは官庁事務所)
だという気もしますが、これも日本だと、警察への
通報にまで至る会社組織はなかなか無いと思います。
(このマルウェアにも大量所持機能があったかどうか不明)
被害者はとうぜん無実を主張するでしょうし、
報告にもあるように1分に40もの児童ポルノサイトを巡回していた、
という事実はすぐに調べがつくでしょうから、
普通ならウィルスなりマルウェアに感染している、と気づくはずです。
ただ、業務と無関係なサイトを閲覧して、
ウィルスやマルウェアを会社のパソコンや社内LANに
感染させたのであれば、懲戒処分を受けるでしょう。
公官庁の場合はマスコミに報道されるかもしれませんが、
それは児童ポルノ法の問題ではありません。
<<事例 5 ロリペドハッカーによるクラック>>
小児性愛者がハッキング技術を駆使して、
被害者のパソコンを介して児童ポルノを入手する、という実例ではどうでしょうか?
そして、入手した児童ポルノ画像なり動画をいつでも取り出せる倉庫として、
被害者のパソコンを利用するのです。
しかし、その成立は被害者のネットセキュリティに穴がありかつ、
ハッカー兼小児性愛者が、ウィルス駆除ソフトに検知されにくい
マルウェアを入手または設計できる事が条件です。
設計となれば、マイクロソフトや各ウィルス駆除ソフトメーカーの技術者や
専門家を出し抜けるだけのスキルが必要になるでしょう。
そして、被害者が別件の容疑でパソコンを調べられ、
そこに大量の児童ポルノが発見されれば、
冤罪が成立する可能性はあります。
小児性愛者が性欲目的でフォルダを作成していれば、
それはそのまま被害者の性欲目的と取られてしまうでしょう。
しかし、そこまでの凄腕ハッカー兼小児性愛者に
パソコンを乗っ取られる可能性はどのくらいのもんでしょうか?
(2014/9/29 entry)
結論と捕捉 : 「MELLPON」 と 「Noped」
冤罪が起きやすいという反対理由について :
ウィルスやワンクリ詐欺で、意図せず所持してしまった場合 :
結論と捕捉 : 「MELLPON」 と 「Noped」
結論としては、
1. ネットセキュリティが脆弱で、簡単にマルウェアの侵入を許す
2. そのマルウェアが、児童ポルノ性欲目的所持偽装の機能を持つ
3. 未知のトロイの木馬に侵入される
4. 会社のネットセキュリティが脆弱で、
それでいて遵法意識が高く、すぐ警察に通報する
5. 離婚危機、親権争奪の事態に陥っている夫婦で、
警察への通報も辞さないほど関係が悪化している
6. 凄腕ハッカー兼小児性愛者に目をつけられる
7. 別件の容疑でパソコンを押収され、調べられる
などのうち、幾つかの条件が複合すれば
冤罪が成立すると言えなくもないのですが、
その可能性は非常に低いものになりそうです。
<< 捕捉 >> 「MELLPON」 と 「Noped」
児童ポルノ冤罪ウィルスと言えば、
児童ポルノ画像を勝手に保存するウイルス「MELLPON」と
児童ポルノ単純所持を通報するウイルス「Noped」 - GIGAZINE
(web ページのキャプチャ画像)
これが有名です。というか、これ以外に名前のついている
児童ポルノ冤罪ウィルスを見たことがありません。
6年前の記事なんですが、それ以降新種は見つかっていないようです。
さて、まず 「MELLPON」 ですが、これに感染しただけで
冤罪を成立させることは困難と言わざるを得ません。
①警察に通報できない
②性欲目的を偽装できない
③存在がばれている
④所持させる児童ポルノ画像がデフォルトでパッケージされているため、
この被害に遭ったパソコンに保存されている画像は全て同じ
⑤児童ポルノを格納するフォルダに最初から
「mellpon」 と名前がついている
4.46MBという容量まで判明している
記事には、
「このウイルスを改良したウイルスが山のように発生している」
「ウィルス作者がちょっと工夫すればいろいろなものに変更可能」
などと、パターン化していない亜種が出回っているとの記述がありますが、
既知のトロイの木馬型マルウェアである事に変更は無いようですし、
いずれもネット掲示板などからファイルやプログラムを
ダウンロードした際に侵入を許しているようですから、
セキュリティ意識を普通に持っていれば
感染する可能性はほとんど無いでしょう。
ちなみに、児童ポルノ所持型の亜種は現在に至るまで
発見されていないようです。
次に 「Noped」 というワーム型マルウェアですが、
①条件に適合する児童ポルノ画像、しかも jpg ファイルが
パソコンに無いと機能を発揮しない
②通報先は政府機関 (アメリカ?) のリストからランダムに選ばれる
その国の警察じゃないと無視される可能性大
②日本の警察に通報がいったとして、通報者が匿名同然であれば、
さらに性欲目的所持の根拠の提示が無ければ、
仮に悪質な所持者が感染して通報されても捜査着手に至らない
という欠陥があるので、被害に遭う事は無いでしょう。
(被害というか、本当に児童ポルノを性欲目的で所持していれば
冤罪ではなく本当の犯罪になるわけですが)
(2014/9/30 entry)