2013年04月16日

スウェーデンをディスるコピペに対する疑問。- 荻上式BLOG



間違いだらけのカタルシス理論



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ここからのエントリは、他サイトやブログにおける
カタルシス理論批判を取り上げます。
と言っても、ほとんどはカタルシス理論そのものよりも
犯罪統計などの解釈の誤りに対する指摘がほとんどです。


規制反対派による性犯罪統計を根拠としたカタルシス理論擁護は


1.ある国や地域の性犯罪件数を時系列で比較する
2.規制の強化度に差がある国や地域同士の性犯罪件数を比較する



の2つに大別されます。
1.の 「時系列比較」 は必ずしも規制反対派の多数支持を
得ていない、と以前に書きましたが、
2.の 「国・地域間比較」 はかなり多くの規制反対派が
論拠として採用している、という印象があります。
 (たとえば、「規制が強化されている国ほど性犯罪が多い」 
「性犯罪が多い外国の規制を真似するな!」 など)


しかし、そのように単純に比較できるものなのかどうか?
という疑問が今回引用したエントリの主旨となっています。



ディストピア、ディスっとくわ。 - 荻上式BLOG
      (web 魚拓)

(略)

「スウェーデンを見習えさえすればハッピー」という単純な主張を
している人がいればどうかと思うけれど、同様に
「スウェーデン=犯罪大国」みたいなのもちょっと信じがたい。
今日も、キャンペーンブログのエントリーを書こうと『正論』とかを
読んでいたらこの話題をみつけたので、既に賞味期限切れの
話題っぽいけれど(?)ちょっと調べてみようと思った。
たとえば林道義さんがHPで次のように書いています。

 
スウェーデンでは離婚率が約五〇%だということだけは
よく知られている。
では犯罪率はどのくらいか、知っている人は少ない。
犯罪数が人口当たりアメリカの四倍、日本の七倍。
強姦が日本の二〇倍以上、強盗が一〇〇倍である。
  (武田龍夫『福祉国家の闘い』中公新書

なんとスウェーデンという国は世界に冠たる犯罪王国なのだ。


こういった主張のほか、自殺率がやたら高いとか、
家族が崩壊しているとか、
税金がやたら高いとか、いろんなバージョンがあります。
インパクトもたっぷり、ついついトリビアとして広げたくなりそうなネタで、
実際2ちゃんねるとかでも同じ論旨のコピペがでまわっているんですが、
これらは本当なんでしょうか。


まず「スウェーデンでは離婚率が約五〇%」という点について。


 (引用者注 ・ 離婚率と自殺率の検証については略)


で、いちばん曲者なのが
  「犯罪数が人口当たりアメリカの四倍、日本の七倍。
   強姦が日本の二〇倍以上、強盗が一〇〇倍である」
という部分。
たとえば「UNODCのデータを元にした比較データ」を見てみると、
強姦は日本が 1.2~1.7 であるのに対し、
スウェーデンは 14~15 となっていて、約10倍。
強盗は、日本は 1.82~4.07 であるのに対し、
スウェーデンは 65.08~75.04 となっていて、約35倍。
20倍、100倍は誇張だと思うけれど、比較方法によってはそれなりに
近い数字を算出(演出?)できるかもしれない。
たとえば別の年度にするとか、比較年度を統一しないでみるとかね。


ただ、「UNODCのサイト」でも但し書きがされているとおり、
そもそも国によって犯罪の定義やカウント方法がまったく異なるため、
各国の報告件数をもってして「犯罪率」を比較するということはできない

という大前提には注意が必要。


別のデータ、「ICPO調査」とか
UNITED NATION Office on Drugs and Crime」(PDF)
なんかではこれまた異なる数字が出されているし、集計の仕方もまちまち。(略)
そもそも日本国内でも、年や白書によって数値や定義が
変わっていたりする点に注意を必要とするわけで、
他国と比較するのであればなおさらかも。


つまりこういう数値でわかることは、
あくまで「どの国が、どの犯罪を何件として
カウントしているか」ということであって、それが即「犯罪事情」を
表しているということではない
ということです。


もしちゃんと「実情」を比較するのであれば、各国の基準を調べた後、
基準をそろえなおした上でデータを再集計しなおしたりする作業が
必要不可欠になる。


特に「強姦」などは、「UNODCのサイト」にも
  「In the case of some categories of violent crime
    - such as rape or assault - country to country
   comparisons may simply be unreliable
  and misleading」
と明記されているくらい、比較に際しては注意が呼びかけられているし。

 (引用者注 ・ 英文拙訳 
  暴力犯罪のいくつかのカテゴリ - たとえば強姦や暴行 - 
   における他国間の比較は、
   率直に言って信頼がおけない、または誤解を招く恐れがある。)



たとえば
 『European Journal on Criminal Policy and Research』
に掲載された
 「Crime Statistics as Construct:
   The Case of Swedish Rape Statistics」
という論文では、スウェーデンは他のヨーロッパの国々より
約3倍ほど「強姦」の率が数値上多いけど、
それは実際に3倍強姦されてるわけではないので単純に比べられないという
指摘がされている。
数値上多く見える理由として、統計上の要因、
法律上の要因、実質的な要因が
それぞれ列挙されており、要するに他の国より強姦の判定が厳しいことも
考慮して吟味しなければならないと書かれている。


この論文では、スウェーデンでは


 ・ 婚姻例外は適用されないので夫婦間でも強姦がカウントされること、
 ・ 届け出された時点で件数にカウントされること、
 ・ 強姦の回数分カウントされるためたとえば同じ人に100回強姦されたら
   100件とカウントされること
   (夫婦間で長期間「強姦」があったことが発覚したら、大きくはねあがる)、
 ・ 一度カウントされた場合、誤認だとわかっても数値の上では
    訂正されないこと、
 ・ 未遂でもカウントされること、
 ・ 本人の申告だけではなく第三者で届出可能なこと、
 ・ 強姦と殺人を同時にすると殺人1+強姦1で数えられること、
 ・ 男女間の性交に限定せずオーラルセックスなども含まれるため、
 ・ 日本では「猥褻行為」や「痴漢」などとされるものもカウントされること


などなど、要するにスウェーデンは強姦に対しての判定が厳しいがゆえに
強姦の率が数値上多くなっているのであって、その数値をもってして
単純に比較はできないということが指摘されている。


もちろん、この指摘がどれだけ妥当なのかは
これまた不透明なので注意が必要。
だけれど、これに懐疑を示しつつ実際の数値を透明化するためには、
やはり別の集計方法を考えなければいけないと思う。


「犯罪大国」というフレーズについても言及しておくと、
例えばヨーロッパ評議会がまとめた

「European Sourcebook of Crime and
Criminal Justice Statistics」


というデータを見る限り、スウェーデンが特にヨーロッパの中で突出して
強盗率が高いわけでなく、おおむね平均的な値だということがわかるので、
もしスウェーデンが犯罪大国なら、ヨーロッパはほとんどが
犯罪大国ということになってしまう。
もちろん、この数字もそのまま日本のものと比べることができません。
というか、日本をスタンダードにしたら、結構多くの国を
「犯罪大国」呼ばわりしてしまいそうだけど。


(略)


『福祉国家の闘い』 という本がどういう手続きをもって
 「強姦事件が日本の20倍以上、強盗は100倍以上」
と結論付けたのかはわからないけれど、比較の基準が不透明であり、
また仮に何かのデータが数値上日本の数倍であったとしても
そのデータの背景も綿密に検討する必要がある。


さらに言えば、仮に共通の基準を設けて国際比較をしたとして、
どこかの国がどこかの国より特定の犯罪が多かったとしても、
その差異の根拠を簡単に「○○思想のせい」「○○政策のせい」
というような形で
特定することはとても難しいので、より一層の注意が必要だと思う。

なんでこんなことを書くのかというと、
 「スウェーデンはフェミニズムのせいでこんなに悪くなった」
 「福祉国家のせいで犯罪が増えた」
みたいなことを本気で書いている人が結構いたから(汗)。
そういう人は
同じ口で
 「教育のせいで日本はだめになった」
みたいなことを言っていたりして、
どうも素朴なコミュニケーションモデル、朴訥な因果論(陰謀論?)を
信じているように思えてならない。




このエントリの主旨は、保守派陣営によるスウェーデンの福祉政策批判の
根拠となっている統計解釈の間違いへの指摘ですが、
これは表現規制反対派による同じ間違いに対する指摘に
そのまま敷衍することができます。


もちろん、これだけでは福祉政策や表現規制の強度と犯罪増加の
因果関係を完全否定出来るものではありません。
明らかに言えることは、
 「条件が違う国同士の犯罪統計を単純に比較できない」
 「因果関係がどのくらいあるのかはハッキリとわかっていない」

という事だけです。



何にせよ、このような根拠に基づいた
「表現規制を強化している国は性犯罪が多い」
などという主張に対しては十分疑ってかかる
必要があるでしょう。




              (2011/10/7 entry)



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captain_nemo_1982 at 17:30│Comments(2)TrackBack(0)間違いだらけのカタルシス理論 

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この記事へのコメント

1. Posted by わらぽん村の名無しさん   2013年07月26日 05:06
どれだけ理屈をこねても、児童ポルノを規制した
スウェーデンでは強姦が増えてる事実は変わらない
犯罪が増えてるのは、規制に効果がない事を証明している

大体、スウェーデンの強姦の定義を管理人さんは主張しているが
なぜ、児童ポルノを規制後、それまでと違い性犯罪が増加したか?
というのが問題

「所持を違法にした」だけで
別に強姦の定義が変わったわけではない

にも関わらず、
「所持を違法にした」後、強姦の数が増えたなら
それは「他国では強姦ではない事件も、強姦としてカウントしてる」
のではないはず

爆発的に増えるのは、それなりに原因がある

>そもそも国によって犯罪の定義やカウント方法がまったく異なるため、
>各国の報告件数をもってして「犯罪率」を比較するということはできない

全く異なる、というのは大げさ、ちょっと差異がある程度
強姦なら、女性をレイプする、など。
そういう定義はどの国も同じ

>「規制が強化されている国ほど性犯罪が多い」 

事実でしょ

>強姦は日本が 1.2~1.7 であるのに対し、
>スウェーデンは 14~15 となっていて、約10倍。

>強盗は、日本は 1.82~4.07 であるのに対し、
>スウェーデンは 65.08~75.04 となっていて、約35倍。

規制をしてもこの結果。規制には効果はない
2. Posted by わらぽん村の名無しさん   2013年07月26日 05:10
>スウェーデンでは
> ・ 婚姻例外は適用されないので夫婦間でも強姦がカウントされること

夫婦間の強姦、ってありえないでしょ

> ・ 届け出された時点で件数にカウントされること、

つまりそれだけ性犯罪が、規制したスウェーデンで多い事
つか、日本でも同じだし

> ・ 強姦の回数分カウントされるため
>たとえば同じ人に100回強姦されたら100件とカウントされること

例えば無茶苦茶、そんな事例はないでしょ
そもそもそういうのは日本でも同じ

> ・ 一度カウントされた場合、誤認だとわかっても数値の上では訂正されないこと、

誤認の事例が少ないでしょ、無理有りすぎ

> ・ 未遂でもカウントされること、

未遂になった事例が少ないでしょ。

> ・ 本人の申告だけではなく第三者で届出可能なこと、

だから?強姦があった事実は変わらない 
つまりそれだけ性犯罪が、規制したスウェーデンで多い事
 
>・ 強姦と殺人を同時にすると殺人1+強姦1で数えられること、

強姦+2、じゃないじゃん

> ・ 男女間の性交に限定せずオーラルセックスなども含まれるため、

オーラルセックス自体の強姦が少ない

> ・ 日本では「猥褻行為」や「痴漢」などとされるものもカウントされること

いや、されないから

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