2013年04月16日

まともに取り合うべきか迷うレベルの 「フィルタリング否定論」



間違いだらけのカタルシス理論



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児童ポルノ規制による性犯罪の増加
      (web 魚拓)


このサイトの上から 1/4 あたりで、管理人ランナー氏は
インターネットのフィルタリングが強姦件数を増加させた、
という主張を行っています。


ランナー氏の考えからすれば、性表現を規制しようとする
社会の風潮が性犯罪を誘発すると言いたいんでしょうが、
そのような因果関係を裏付ける論理的根拠や学問的知見は示されていません。


その代わりにランナー氏が根拠として提示するのは、
例によって強姦件数の推移とフィルタリング利用数推移のグラフを
関連付ける (こじつける) という手法です。


フィルタR

フィルタ状況



そして、少年による強姦件数に関して、
このような統計解釈を披露しています。


2008年2月から携帯電話フィルタリングを開始したことにともない、
2008年の後半は、今までの傾向とは逆に、少年による強姦が急増
(全年齢による強姦に比べて、少年による強姦の割合が突出し)
(下半期は上半期の84%増)しました。
2009年には、13才以下の青少年による強姦犯罪が急増しました



正直この時点ですでに苦し紛れ感満載であり、
まともに取り合っていいのかどうか迷うレベル
ですが、
フィルタリング否定論に関してはランナー氏もかなり
力を入れて論じているようですし、
私が反論しとかないとまた一部の愚直な規制反対派が
「ランナー氏は正しいんだ!」 とか勘違いしかねません。
ただ、ここでのランナー氏の主張はこれまでにまして
ムッチャクチャぶりが爆発してまさに混沌状態であり、
かいつまんで反論するにも膨大な紙幅を要してしまいます。


ゆえに、上のグラフを見て 「アホらし!」 と思った方は、
今回のエントリはここから先は読まなくても大丈夫でしょう。
もっと有意義なことに時間を使ってください。


 (ちなみに、ランナー氏は認知件数と検挙人数を
   ごっちゃにしてグラフを作っているようですが、
    少年犯の正しい比率が計算できないなど不都合があるため、
     私が作成したグラフはそれらの別を明記しています。)
    


さて、ランナー氏は2008年のフィルタリング普及上昇で
少年の強姦犯が増加したと主張します。
このグラフは半年ごとの検挙人数で折れ線データを作っており、
2008年上半期だけ見れば件数は上昇したように見えるんですが、
その後フィルタリング普及上昇傾向がやや落ち着いても
検挙人数は脈略無く、同じくらいの振幅で増減しています。


フィルタR2



なぜかランナー氏は、2009年以降の増減が
何に由来するのかを語ろうとしません。
おそらく、こじつけれるほどの原因が見つからなかったのでしょう。


とりあえず、フィルタリング普及傾向はその後も上昇していることですし
1年ごとのデータでもうちょっとスパンを長く取ってみます。


Rsyounen
    
画像をクリックすると大きな画像が別画面で開きます
こうやって見れば 「このデータだけではフィルタリングと強姦の
因果関係は見いだせない」という事がすっきりとわかると思います。
  (2008年は6人増えただけ)


また、ランナー氏は少年犯による強姦全体の割合を問題にして
「急増」 「突出している」 などと煽ってますけど、
これもグラフにしてみたらどうなるでしょう?


Rhiritu
    
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まあ、増えてるっちゃ増えてますが、ほとんど問題にならないレベルでは?
少なくとも、10年前の比率はこれの2倍以上あったわけですしね。


ちなみに、全体の強姦認知件数。


Rall
     
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まあ話がフィルタリングなんで、18歳以上の強姦加害件数が
関係することは無いでしょうし、このグラフだけを見るなら
そう考えざるを得ないでしょう。
この話は後でまた出てくるのでよく覚えておいてください。


触法少年 (14歳未満) による強姦補導人数に関しては、
逆に2008年は前年に比べて2人減っています。


Rsyokuhou
     
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2009年、フィルタリング普及上昇傾向がやや落ち着くにつれて
皮肉にも補導人数が増加しちゃってます。
ランナー氏はもっともらしく、
2009年には、13才以下の青少年による強姦犯罪が急増しました
などとのたまうわけですが、肝心の2008年は減少しているにも
関わらず、なんでそれを無視して2009年のデータに着目するのでしょうか?
また、2009年は14歳以上の少年犯人数が
減少している事実からも目をそむけているようです。


だいたい、触法少年のデータは増減数が常に一桁で推移してて、
7人程度の増減ならフィルタリング以前からも起こってますし、
100万件単位のフィルタリング普及推移を持って
8人とか15人とかの補導人数への影響を語るのは
規模的に見てもかなり無理があるんじゃないでしょうか?


要は、最初からこんなデータで規制の影響を語ろうって
こころみ自体が大きな間違いだってことです。





続いて、ランナー氏は各都道府県のフィルタリングに関する
条例導入時期と強姦件数の因果関係に着目します。


そして、様々なデータを検証し、
フィルタリングを含む一連の青少年規制を早く始めた県ほど
強姦犯罪が多い

という結論を導きます。


勿論、ぶっちゃけて言えば時系列の順序は逆で、
先に結論を設定してからそれに合うデータを切り貼りして
グラフにしているだけなのは言うまでもありません。


まず最初に出てくるのはフィルタリング開始年・青少年条例制定年と
各県の強姦件数を組み合わせた散布図です。


plot
     
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ランナー氏はタイトルに強姦件数と書いてますが、
使用しているデータは地検による被疑者処理数のようです。
強姦件数と被疑者処理数は全然違うはずですが、
ランナー氏はあまり気にしていないようです。
 (もちろん、私も気にしません。最初から無意味なデータですから)


それよりも問題なのは、ランナー氏がここからのデータに
少年犯に限らない全年齢の強姦加害件数を使用している点です。
フィルタリングなどの青少年への規制の影響を語るにあたり、
どうしてまた成人の強姦犯の増減を根拠にするのでしょうか?
こうした自説に都合のいいデータによる牽強付会は、
まさにランナー氏の面目躍如と言ったところでしょう。


次にランナー氏は、いくつかの都県を例に出して
フィルタリングと強姦件数の因果をこじつけようと試みます。


これが物凄いのは、
「青少年規制をはじめた県ほど強姦犯罪が多い」
と断言していながら、例に出した兵庫県や広島県などの中で、
いったいどの県が導入時期が早いのか遅いのか、
いったいどの県の強姦件数が多いのか少ないのか、
書いてある説明ではサッパリわからない点です。


たとえば、これは兵庫県の例ですが


フィルタ兵庫

違法サイト摘発が2002年、フィルタリング努力義務が2006年、
義務化が2008年となってますが、
これが早いのか遅いのか何の説明もありません。
人口10万人あたりの強姦件数は1.2件で、全国平均の1.4件に近いレベル
だそうですが、いったい何を言いたいのでしょか?


他のグラフでも努力義務やら完全義務化やら
包括指定やら深夜外出禁止やら、
いろんな規制事例を例示したりしなかったりします。
データの参照基準が全く統一されていないのです。
おまけにそれらが早いのか遅いのかの説明が何もなく、
読んでいる人を煙に巻いた揚句のはてに


携帯電話フィルタリング政策により重い性犯罪(強姦)を増すことになるのなら、
その政策は、青少年の健全な成長を著しく阻害するものであって、
社会的法益に反するのではないでしょうか。



という結論に達するのですからたまりません。


神奈川県はどうでしょうか?
神奈川県のフィルタリング義務化は2011年4月からです。
ゆえに、神奈川県のグラフでは2005年の努力義務と、
コミック・マンガの規制追加件数を基準に
因果関係を探っているという事になります。


フィルタ神奈川


あんまり増えているようには見えませんね。
2005年から2008年で半分くらいに減ってますし、
何といってもフィルタリングの努力義務と
包括指定開始以降に件数が急速に減少しているのが
アイタタタタタ・・・という感じです。


流石のランナー氏もやばいと思ったのか、
ここでは強姦ではなく少年による強制わいせつ罪を
根拠として使用しています。


そして、
神奈川県の未成年による強制わいせつ件数は、
2009年に61件に急増した。
この急増現象は神奈川県が他県より突出している。
 (一部略、誤字訂正)
と書いてます。


だから、なんで2009年なんですか?


コミック・マンガの規制件数が上昇してピークに達したのは
2007年後半だと、あなたのグラフに書いてあるんですけど?


神奈川県に関しては、唯一未成年による強姦件数も
データとして使用しています。


フィルタ神奈川2


これも確かに増えてるっちゃ増えてますが、1~2件の増減を
ことさら強調するのもなんだかなって感じです。
しかもなぜかここだけ、神奈川県限定じゃなく
全国規模のフィルタリングを根拠にしちゃってますし。


岐阜県に関しては唯一
早くも2006年からインターネットフィルタリングを含む規制を推進していた
という説明があります。努力義務の開始時期に関しては
他の都県も大した変りはないようなんですが、それはともかく
その下にはこんな記述があって度肝を抜かれてしまいます。


岐阜県の人口10万人あたりの強姦認知件数は
全国平均より低いので認知率(暗数)の変化も考慮しました。

その結果、この条例の施行直後に強姦認知件数が
減っていることから、この条例には強姦の認知率を上げる効果は
無いと考えられます。
(一部略)


要するに、岐阜県の場合は早くから努力義務化を
始めたにもかかわらず、自分の
フィルタリングを早く始めた県ほど強姦犯罪が多い
という仮説に合致しないものだから、特例として暗数を
   (被害者の泣き寝入りで表に出てこない件数)
考慮した結果、


「岐阜県は強姦件数が少ないけど、泣き寝入りで
 表に出てこない件数もいっぱいあるはずだよね。
 フィルタリングやってもそういう暗数が
  表に出てこないから、やる意味がないよね」



と開き直っているのです。


なんでフィルタリングに強姦犯罪の認知率向上効果を
期待しなければいけないのか、さっぱり理解できません。


強姦件数が多ければ 「多いからいけない」 と言い、
少なければ 「効果が無いからいけない」 と言い、
どっちに転んでも 「フィルタリングは悪」 という結論に達するのですから、
これでは最初からデータを検証する行為自体に意味がありません。


長野県のグラフに至っては、ランナー氏の大胆かつユニークな
イマジネーションの飛躍は頂点に達します。


フィルタ長野


「親子で学ぶセイフネット講座」 開始で強姦件数が減少した

だそうです。


いったい、どれだけ想像力をたくましくすれば、


小中学生とその保護者を対象とした
 市民講座の開催に影響されて、
  犯行を思い止まる強姦犯罪者予備軍



なんて存在に思いを馳せることができるのでしょうか?


ありとあらゆる性表現規制に対する尋常でない憎悪が
駆り立てているのであろう妄想力のチギレっぷりは、
余人・凡人におよびもつかぬ域に到達してしまっているようです。


ところで、長野県の強姦件数に関して、
2000年以前のデータはどうなってるのかと
ちょっと気になって調べてみました。
すると、おかしなことにランナー氏のグラフと
警察庁の統計に、一部食い違いが見られます。
また、ランナー氏は長野市の青少年条例制定を
2002年としていますが、施行は2003年4月1日です。
○長野市青少年保護育成条例


これらをふまえ、グラフを作り直してみました。

R長野比較
     
画像をクリックすると大きな画像が別画面で開きます

平成14年(2002年)以前の強姦認知件数に
大きな相違があります。
私のデータが間違っているのか、
ランナー氏のデータが間違っているのか、
それともランナー氏がデータをねつ造したのか、
原因はわかりませんが、私のデータが正しいなら
そしてランナー氏の統計解釈を援用するなら、
長野市の青少年保護条例が強姦件数を
大きく減少させた、という事になってしまいます。


まあこんなことは大した違いではない、
とついつい感覚がマヒしてしまうほどに
セイフネットの件の破壊力は凄まじいものがありますけど。
私もランナー氏に深くかかわりすぎて
規制反対派の暗黒面に落ち込まないよう
じゅうじゅう気を付けたいと思います。





★補記


今回私が作成したグラフは、主に警察庁の統計
基にしています。
問題となる2002年の長野県の強姦件数に関しては、


平成14年の犯罪
 → 3 年次別 府県別 罪種別 認知・検挙件数及び検挙人員
 → PDFファイルの21ページ


と辿って行けば、長野県の強姦認知件数を確認できます。


いちいち見るのが面倒くさいという方のために、
PDFファイルのスクリーンショットを貼っておきます。


R長野H14
     
画像をクリックすると大きな画像が別画面で開きます


なお、平成22年のデータのみ見つからなかったので、
ランナー氏のグラフの数値をそのまま使用しています。



                   (2011/7/31   entry)




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captain_nemo_1982 at 19:00│Comments(1)TrackBack(0) 間違いだらけのカタルシス理論 

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この記事へのコメント

1. Posted by わらぽん村の名無しさん   2013年07月26日 04:58
くだらない
フィリタリングで強姦が増えてるのは事実
幾ら理屈をこねてもそれは変わらない

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